モードの革命児エディ・スリマン：セリーヌでの功績

ディオール、サンローラン、セリーヌでデザイナーとして活躍し、多くの改革を起こしたエディ・スリマン。ファッション業界で最も影響力のあるデザイナーの一人として知られており、エディ・スリマンのミニマルでロックシックなデザインスタイルは、メンズファッションとウィメンズファッションの両方に革命をもたらしました。
また、2024年にはセリーヌを退任することが発表され、今後の動向に注目が集まっています。

この記事ではエディ・スリマンの人物、キャリアとともに、セリーヌでの功績を紹介していきます。

モードの革命児エディ・スリマンとは

出典 rain-mag.com

ファッション界で「モードの革命児」と称されるエディ・スリマンは、独自の美学と革新的なスタイルで多くのブランドを再生し、シーンに新たな風を吹き込んできました。エディ・スリマンがもたらしたスタイルと、その背景とは一体どのようなものでしょうか。生い立ちやデザインについてチェックしていきましょう。

生い立ち

エディ・スリマンは、1968年7月5日にパリ19区で生まれました。チュニジア人の父親とイタリア人の母親をもち、幼少期から母親と共に洋服を作っていたといいます。スリマン氏は小さく細身だった自分の体にコンプレックスを抱いており、自分の体に似合う服を自らデザインしていました。しかし、ファッション業界は競争が激しいと考えたスリマン氏は学問として、政治学の道を選びました。スリマン氏はフランス屈指の難関校である「パリ政治学院」に進学し、卒業後にはさらに美術史の理解を深めるために「ルーブル美術学校」で学んでいます。
スリマン氏の経歴で驚くべき点は、ラフ・シモンズと同様、ファッションに関する正式な教育を一切受けていないということです。
また、幼い頃からロックンロールと写真にも情熱を注ぎ、その価値観が後のデザインスタイルの基盤を築いたとされています。11歳の頃からすでに写真に強い関心を持ち、カメラを手にして創作に励んでいました。後に自身の写真集も発売しています。
また、ロック音楽は、自身のコンプレックスを吹き飛ばしてくれる存在だと語っています。デイヴィット・ボウイ、ポール・ウェラーなどを好んで聴いていたそうです。現在、「適切な音楽がなければ、ショーのスタイルをつくりだすことはできない。」と語るスリマン氏は、1970年代から1980年代にかけてのパンクロックやユースカルチャーから強く影響を受けています。スリマン氏の多彩な才能は幼少期の頃から様々なカルチャーに触れていたことから培われているといえるでしょう。

キャリア

エディ・スリマンのキャリアは、ルーブル美術学校卒業後、ジョゼレヴィでのクリエイティブ・ディレクターとしてスタートしました。その後、フランスのファッション界で名高いジャン・ジャック・ピカールの指導を受け、ルイ・ヴィトンの象徴である「モノグラム・キャンバス」プロジェクトの100周年記念にも参加しました。

そして、イヴ・サンローランで本格的にキャリアをスタートさせます。シルエットやカットにこだわったデザインやユニセックスなアイテムを多く世に送り出し、メンズウェアをリブランディングしていきます。そして、ディオール・オムではスキニーパンツやテーラードジャケットなど、細身のアイテムを打ち出します。そして、コレクションのアイテムを日常的なファッションアイテムへと変化させていきました。クリエイティブディレクターとして戻ったイヴ・サンローランではロゴの変更やロックなスタイルの追及などで革新を行いました。

そして、セリーヌでの活躍はスリマン氏のキャリアの中のハイライトともいえます。セリーヌでは、初のメンズラインを担当し、クラシックなスタイルにスリマン氏独自のエッジの効いた要素を融合させ、ブランドのイメージを刷新しました。セリーヌのクリエイティブ・ディレクターとして大きな成功を収めましたが、2024年10月にスリマン氏はセリーヌ退任を発表しました。

デザインの特徴

エディ・スリマンのデザインの特徴は、「少年性」や「ロック」という言葉で表現されます。ロックやパンクの音楽シーンからの強い影響を受けた独特なスタイルが特徴です。スリマン氏の作品は、細身のシルエットを基調とし、シャープでモダンなラインが際立ちます。無駄を省いた洗練されたデザインの中に、反抗的で自由な精神が込められており、それがスリマン氏のデザインの根底に流れるテーマです。

ロックスタイルの要素は、レザーやメタリックな素材、ジップやスタッズといったディテールに反映され、着る人に力強さとエッジの効いた印象を与えます。スリマン氏のデザインは、時代のトレンドに左右されることなく、普遍的な魅力を持ち続けるため、常にファッションシーンの最前線に立っています。そのシャープなデザインと音楽的なルーツが、スリマン氏のスタイルを際立たせ、多くのファッション愛好家に支持されています。

セリーヌでの功績

セリーヌのクリエイティブ・ディレクターとしてエディ・スリマンが手掛けた功績は、ブランドの新たな方向性を示し、ファッション業界に大きな衝撃を与えました。従来のフェミニンでミニマルなセリーヌのイメージに、ロックやパリジャンシックなエッセンスを融合し、モダンでエッジの効いたスタイルへと大胆に変貌させたスリマン氏のアプローチは、世界中のファッションファンに熱烈に支持されています。
それでは、スリマン氏のセリーヌでの功績について見ていきましょう。

ブランドの方向性の転換

エディ・スリマン氏がセリーヌに与えた最大の功績のひとつは、ブランドの方向性を大きく転換した点です。スリマン氏は就任後、ブランドの象徴であるロゴをクラシックさを残しつつも現代的で洗練されたロゴデザインに生まれ変わらせました。

また、セリーヌにとって初のメンズウェアラインを導入し、ブランドのターゲット層を広げたことも革新的な取り組みです。それまでメンズラインのなかったセリーヌは、女性向けのブランドというイメージを刷新しました。スリマン氏の新しいメンズファッションの熱狂的なファンはエディ系男子と呼ばれ、大きく話題になりました。

そして、スリマン氏のセリーヌは、かつてフィービー・ファイロが築いたフェミニンでミニマルなスタイルから一転し、ロックシックな要素を全面に押し出したスタイルにシフトしました。スキニーパンツやライダースジャケット、全身黒のルックなど、若々しさと反抗的な精神を表現するアイテムを多く打ち出しました。これらの大胆な変更により、セリーヌは新たなファッション層にも影響を与え、従来のブランドイメージを一新させました。

パリジャンシックの再定義

スリマン氏はセリーヌにおいて「パリジャンシック」を新たな視点で再定義しました。スリマン氏が手掛けるセリーヌは、従来のエレガントで洗練されたパリのスタイルに、ロックの要素を絶妙に取り入れたことで、従来の「シック」にエッジの効いたスパイスを加えました。

スリマン氏が打ち出したスタイルは、ミニマルなシルエットを基調としながらも、デザインの細部にアクセントを効かせたデザイン。例えば、革ジャケットやスタッズといった大胆な素材やディテールを用いつつも、全体的にはシンプルで上品さを保つバランスを実現しました。これにより、スリマン氏はパリジャンシックを単なるクラシックではなく、現代的で自由なスタイルへと進化させ、多くのファッショニスタから称賛を集めています。この独自のアプローチがセリーヌに新たな活力を与え、ブランドの象徴的な魅力のひとつとなりました。

エディ期の代表デザイン

【トリオンフ】

「トリオンフ」は、フランス語で「凱旋」を意味し、パリの凱旋門を囲む鎖から着想を得たX字のマークです。トリオンフマークは、シンプルなショルダーバッグをはじめ、キャップやハットなどのアイテムにも取り入れられ、セリーヌの象徴として数多くのアイコニックなアイテムに用いられています。また、スタイルに合わせやすいミニマルなデザインなため、日常使いからフォーマルまで幅広く活躍してくれます。

【16（セーズ）】

エディ・スリマンが手掛けたバッグの中でも特に注目を浴びているのが「16（セーズ）」です。名前の由来は、パリのヴィヴィエンヌ通り16番地にある歴史的な建物「THE HOTEL COLBERT」です。デザインは、特徴的なクロップド・フラップと、丸みを帯びたフェミニンなシルエットが魅力で、60年代のベルトスタイルを彷彿とさせつつも現代的なエッセンスが加えられています。エディがセリーヌに加入して最初にデザインしたバッグとして、プライベートにもオフィスシーンにも適したシンプルな美しさを持っています。また、「ミニ16（セーズ）」や「ティーンソフト16（セーズ）」といった後継モデルも展開され、女性の定番アイテムとして愛されています。

【C（セー）】

「トリオンフ」や「16（セーズ）」と並んでセリーヌの人気を誇るバッグが、この「C（セー）」シリーズです。フロントには「C」のロゴが象徴的にあしらわれ、余計な装飾を省いたシンプルで洗練されたデザインに仕上げられています。ゴールドのチェーンが加わることで、大人の落ち着いた雰囲気を演出しています。「C（セー）」は、70年代のアーカイブからインスピレーションを受け、スクエアなフォルムにモダンさを添えたゴールドのクロージャーが目を引きます。素材にはレトロなキルティングやカーフレザーが用いられ、豊富なカラーバリエーションで、パーティシーンなど多彩な場面にフィットするバッグです。

【ライダースジャケット】

エディ期のライダースジャケットは、ロックテイストと洗練されたシルエットが融合した一品です。高品質なレザーを使用し、細身のシルエットが特徴で、体にフィットする美しいラインを描きます。ジップやスタッズなどのディテールは、クラシックなライダースの要素を取り入れつつ、モダンでエッジの効いた仕上がりです。シャープなデザインとパリジャンシックのエレガンスが見事に共存し、個性的でありながらも上品な印象を与えるジャケットです。

【ダブルボタントレンチコート】

エディ・スリマンがデザインしたセリーヌのダブルボタントレンチコートは、クラシックな要素とモダンな感覚を融合させたエレガントなアイテムです。特徴的なダブルボタンのデザインが、コート全体に洗練された印象を与え、ミニマルながらも存在感のある仕上がりです。ウエストベルトがシルエットを引き締め、細部までこだわったディテールがエディ・スリマンならではのモダンなエッジを加えています。トラディショナルな魅力と現代的なスタイルが融合した一着です。

【ロゴTシャツ】

エディ・スリマンがデザインしたセリーヌのロゴTシャツは、シンプルでありながら存在感のあるアイテムです。特に若者を中心とした「エディ系男子」に絶大な人気を誇ります。無駄を省いたミニマルなデザインの中に、大胆にあしらわれたセリーヌのロゴがフロントを飾り、ブランドの象徴的なスタイルを際立たせています。上質なコットン素材を使用し、リラックスしたシルエットながらも洗練された印象を与えるTシャツです。カジュアルな装いに品格を加えるこのアイテムは、デイリースタイルにエレガントさをプラスします。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございました。

エディ・スリマンのデザインは、スリムなシルエット、ロックンロールやユースカルチャーの影響、ジェンダーレスな要素、そしてミニマリズムとヴィンテージスタイルの融合を特徴としています。スリマン氏の独自の視点と文化的背景を取り入れたデザインは、今後もファッション界に多大な影響を与え続けることでしょう。

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