COMME des GARCONS 唯一無二のデザイナー『川久保玲』
このコラムでは、デビューから日本のファッションブランドを牽引し続けてきたギャルソンについて、デザイナーである川久保玲のキャラクターなども含めて少しご紹介します。
モード界を席巻した黒の衝撃
コムデギャルソンは、同じく日本を代表するブランド、Yohji Yamamotoとともに1981年、パリコレクションにデビューしました。
当時の華やかで女性らしい身体のラインを強調するプレタポルテ(高級既製服)の流れの中にあって、黒一色で身体に寄り添わない服のコレクションを発表。
掟破りのコレクションは批判も浴びつつ、誰にも与しない自分のクリエーションを見せつけた川久保は、
この頃の最大の衝撃をファッション界に与え、「黒の衝撃」として語り継がれています。
80年代の日本では、「カラス族」と呼ばれた一種のファッションムーブメントの牽引役となり、
当時のファッショニスタはギャルソンやヨウジを筆頭とした黒いイメージのブランドに身を包み、近寄りがたい装いで街を闊歩していました。
謎に包まれたカリスマ、川久保玲
ギャルソンのデザイナーである川久保玲は、メディア露出が少なく、インタビューもあまり好まないようです。
そのため彼女に関する情報は極端に少なく、おかっぱ頭に洋服は全身黒、よくサングラスをかけていることもあいまって、非常に謎の多い人物です。
インタビューが少ないため、彼女のクリエーションの源泉やファッションに対する哲学はなかなか伺い知ることができないのですが、
限られた複数のメディアでインタビューに登場する際には、ギャルソンのコレクションでは、今までに無かったもの、新しいものを作り続けるつもりでいる点を強調しています。
ファストファッションに対する意見で物議を醸したことも
そんなインタビュー嫌いな川久保ですが、2012年に朝日新聞のインタビューに応じ、ファストファッションの隆盛に対して述べた感想が物議を醸したことありました。
不況が続き、不安定な世の中にあってはギャルソンの前衛的な姿勢には逆風ではないかという話の流れで、
「すぐ着られる簡単な服で満足している人が増えています。他の人と同じ服を着て、そのことに何の疑問も抱かない。
服装のことだけではありません。最近の人は強いもの、格好いいもの、新しいものはなくても、今をなんとなく過ごせればいい、と。
情熱や興奮、怒り、現状を打ち破ろうという意欲が弱まってきている。そんな風潮に危惧を感じています」
【引用:朝日新聞デジタル(http://www.asahi.com/fashion/beauty/TKY201201180360.html)】
と話しています。また、
「そういう傾向がどんどん進むと、平等化というか、多様性がなくなり一色になってしまう恐れがある。
いいものは人の手や時間、努力が必要なので、どうしても高くなってしまう。
効率だけを求めていると、将来的にはいいものが作れなくなってしまいます」
【引用:(同上)】
と述べ、ファストファッションに対する考えを示しました。
これをファストファッションに対する批判と捉えた一部の層は、「不況の中服になど金は使えない」といった反論しました。
しかし、川久保はファストファッションやそうした市場に一定の理解は示しています。
このような一連の発言は、ファストファッションが市民権を得過ぎて、それ一辺倒になることに警鐘を鳴らしただけではないでしょうか。
ファッションに限らず、個性や主義を戦わせることは、様々な物事において成長を促す要素だと思います。
服を着飾ってオシャレに気を使うということは、他人と差を付けたい、他人より抜きん出たいという意識の現れでもありますから、
そうした精神も持つ服好きな人々にはそれだけでパワーがあるという意味にほかならないでしょう。
パワーのある人が減れば当然、その集団自体が萎縮するのは自明。
どの分野でもパワーのある人が減ってしまっては、パワーのない社会になってしまうということであり、不景気やネガティブな雰囲気に輪をかけるだけです。
こうした危機感を彼女は感じていたのではないでしょうか。
この解釈が間違いでないのなら、誰もが手に入れられる服を何の疑問もなく均一的に着こなしているのは、確かに危険な風潮だと感じます。
ギャルソンの新たなフェーズを象徴する、DOVER STREET MARKET
コムデギャルソンは会社として設立からすでに40年が経過し、その名声や実力だけでなくビジネス面でも大きな成功を収めています。
2015年には、ここ最近のギャルソンの業態でも好調な売上を継続するドーバーストリートマーケット(DMS)が誕生から10年を迎えました。
DMSは、コムデギャルソンが展開するセレクトショップで、
そのセレクトはストリートブランドから、デビューしたての若手ブランドまで多岐に渡ります。
取り扱うどのブランドも個性が強く、売り場はそのブランドのデザインをそのまま反映させた内装です。
DMSの売り場の半分はギャルソンが占めますが、半分はバラバラでその様子は川久保曰く「美しいカオス」。
出典:http://tmagazine.blogs.nytimes.com/2013/12/06/the-making-of-dover-street-market-new-york/?_r=0
売り上げを作れるブランドばかりでなく、中には全く採算の取れないブランドもあるのだとか。
しかし川久保は、DMSの看板であればそうしたブランドを扱っても問題ないと、計算に基づく不採算であることを強調しています。
「売り場は、容れ物がしっかり主張していれば、そこに色々なものがあって混沌としていても良い効果になる。
容れ物が薄弱なところに単に色々な商品やブランドを持ってきて意味も無く並んでいるだけだったら、人もドキドキしません。
容れ物に主張があれば、多少間違ったものが入ってもそれはそれで成立するのです。ですから、店作りは中身も大事だけれど容れ物も大事です。」【引用:繊研plus(http://www.fashionsnap.com/the-posts/2015-04-20/cdg-kawakubo-shop/)】
川久保は、DMSで個性ある様々なブランドをセレクトする意義をこのように説明します。
つまり数字を取りにくいブランドを広めるための容れ物=店を作れているということです。
DMSには、これからのファッションブランドやデザイナーには、ビジネスをクリエーションする力も必要だという川久保の強い意志が反映されています。
ファッション業界にとって、すでに何十年も続く不景気は逆境に違いありませんが、ギャルソンはクリエーションによってそんな時代を生き抜いています。
川久保は、自らが常に新しいことに挑戦する意味について次のようにコメントしています。
「社会が保守化し安定を求めると、新しい物への追求や創造の力が弱まり前に進めません。
クリエーションの力、思考力が日本を強くする一つの柱だと思います。
ファッションの世界から、強い気持ちを持ち、クリエーションの力を信じて努力、実行していきたいと思います。」
【引用:同上】
モードスケープは服をデザインしませんが、ブランド品のリユースという経済活動を通じて、こうしたデザイナーの心意気のような部分をより多くの人に感じていただくお手伝いが少しでもできれば幸いです。
この記事を書いた人
MODESCAPE
ブランド服専門の買取店モードスケープです。トレンドから過去の名作まで、ワクワクするブランドアイテムを販売・買取しています。ファッションに関する様々な記事・コラムを配信しています。