染色技法:先染めと後染めの比較とケア方法
タイダイ染めや製品染めなど、衣類を染色するには様々な技法が存在し、異なった風合いを楽しむことができる染色技法。この技法には大きく分けて「先染め」と「後染め」の2種類があります。それぞれの技法には独自の特徴とメリット・デメリットがあり、用途や目的に応じて使い分けられています。
この記事では、先染めと後染めの違いや特徴、そしてそれぞれのケア方法について詳しく解説します。
先染めと後染めについて
ひとまとまりにして「染織」と呼ばれますが、それぞれ「織物」や「染物」と区別することができます。その違いや使用される原料について詳しく説明します。
歴史
先染め
先染めとは、糸や繊維を生地にする前に染める染色技法のことを指します。先染めされた糸や繊維を用いて織り上げた生地は「織物」と呼ばれ、日本では兵庫県・播州織地方に古い歴史を持つ「播州織」が有名です。全盛期には年間に3億平方メートル以上もの生産量を誇っていました。以前よりも生産量は減少していますが、現在でも全体の約7割程度のシェアを誇っています。
また、先染めは後述する「後染め」と比べると、水の使用量が削減できるため、染色過程における廃水問題に貢献。近年ではサステナブルな染色方法として再度注目を集めています。
後染め
織り上がった生地や製品を後から染める技法が「後染め」。完成した物を染色するため「染物」とも呼ばれます。後染めの染色技法で有名なのが、京都発祥の「友禅染」。着物や帯を染める際に用いられる伝統的な染め方で、様々な色彩で表現することが可能です。これは江戸時代の元禄期に扇絵師として活躍していた「宮崎友禅斎」によって発案された技法と言われています。
糊を使うことで染料が滲んでいくことを防ぎ、風景や動植物のような複雑な絵も華やかに描くことができます。着物のデザインは縫い目を境にしても、途切れることのない一枚絵で描かれているのが特徴で、友禅染が現在でも着物に用いられるのはそのためです。
染色技法に用いられる原料
染色技法に用いられる主な原料 | 特徴 |
---|---|
天然染料 | 植物や動物などから、色素成分を抽出して作成された染料のことを指します。均一に染めることが難しかったり、大量に入手することができない希少性などのデメリットが挙げられますが、環境に優しい自然派の染料として知られています。 「植物性染料」では紅花や茜、デニムを染める際に使用される藍などが有名です。「動物性染料」では貝やコチニールカイガラムシという、サボテンに寄生している昆虫などから抽出することができます。 |
化学染料 | 天然染料と対をなすのが「化学染料」。有機化学合成によって作られており「合成染料」とも呼ばれています。この染料は明治時代初期から日本へと輸入されました。色の定着が良かったり、安価で大量に染められるなどのメリットから、現在では天然染料よりも化学染料が広く普及されています。 コットンやレーヨンを直接染めることのできる「直接染料」、化学反応によって麻やレーヨンを染める「反応染料」。そして鮮明な発色が期待でき、シルクやウール、ナイロンを染めることができる「酸性染料」など様々な染料があります。 |
助剤 | 染色に使用するのは染料だけではありません。「助剤」と呼ばれる補助的に使用される薬剤も必要です。 染めムラを防ぐ「均染剤」や色の染着を促進する役目のある「媒染剤」、染色の際にその部分を染めないように防ぐ「防染剤」など多くの助剤があります。 |
先染め
生地を先に染めるだけで、染色堅牢度や独特な風合いを表現できるという大きなメリットがある反面、いくつかのデメリットも存在します。
糸を先に染める
先染めはすでに染色されている糸で生地を織り上げるため、あまり色落ちせず堅牢度が高いと言えます。糸が1本ずつしっかりと染まっていて、深みのある色合いを表現することが可能です。違う色同士の糸を組み合わせることで柄を作ることができ、チェックやストライプといったデザインの服には先染め生地が使用される場合が多いです。
以下が先染めにおける主な染色技法です。
先染めにおける主な染色技法 | 特徴 |
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糸染め | 糸の状態から染色することを指します。「チーズ」と呼ばれる、円筒状の管に糸を巻き付けた状態から、染色釜に入れて染め上げる「チーズ染め」。そして、綛と呼ばれる管に糸を引っ掛けて染める「綛染め」。 このように糸染めにもいくつか種類があります。比較的、綛染めのほうがムラなく染色することができますが、設備が手軽なチーズ染めのほうが主流となっています。 |
原料染め | 糸にする前段階の状態で染め上げることを「原料染め」と言います。糸染めよりも中までしっかりと染まるため、より深い色合いが特徴です。 また、繊維の段階で染色を行うことで、紡糸や紡績の過程において色を組み合わせることが可能となります。これにより、色がミックスされた糸を製造することができるのです。 |
トップ染め | 糸染めと原料染めの中間と言える「トップ染め」。通常、糸になる前には繊維の方向を整えたり、微細なゴミを取り除く作業があります。そしてその繊維を太いロープ状にし、スライバーで巻き取った「トップ」の状態から染め上げる技法です。 |
デメリット
染色するために多くの時間を必要とすることがデメリットと言えます。トップ染めにいたっては、1色を作るのに2、3時間かかってしまうことも。先に糸を染めてから生地を作成するので、トレンドカラーに素早く対応できないという点もデメリットです。また、糸の芯までしっかりと染め上げるためには、たくさんの染料も使用するうえに、先染めの生地は大量生産には適しておらず、よりコストが嵩む傾向があります。
後染め
後染めには大きく分けて、インクを塗布して着色する「プリント(捺染)」と生地全体を浸して着色する「浸染」の2種類があります。
完成後に染色する
染められていない糸を使って生地を作成し、完成したものを染め上げます。染液に浸すと生地全体が染まるため、無地や単色のデザインが多くなる場合がほとんどです。たくさんの生地をまとめて染めることができるため、大量生産が可能で低コストなメリットがあります。先染めとは違い、トレンドのデザインやカラーにも臨機応変に対応。主流な染め方と言えるでしょう。
以下が後染めにおける主な染色技法です。
後染めにおける主な染色技法 | 特徴 |
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プリント(捺染) | 生地に直接模様やデザインを印刷する技法。特定の部分に染料や顔料を塗布し、プリント後は熱処理や蒸気を使って染料を定着させます。 そうすることで鮮やかな色彩や繊細なデザインを表現することが可能ですパターンの自由度が高く、ファッションやインテリアにも幅広く使用される技法です。 |
浸染 | 生地全体を染料液に繰り返し浸すことで、均一に色を付けるシンプルな染色技法です。染料の濃度や浸す時間を調整することで、濃淡や絶妙な色合いを作り出すことが可能。 生地を浸すため、無地に染め上がってしまいそうですが、染め方によっては色のバリエーションを付けることもできます。 |
タイダイ | 浸染を使った技法の1つとされるのが「タイダイ」。日本語では「絞り染め」とも呼ばれます。生地を部分的に結んだり縛ったりした状態で染料に浸すことで、ユニークな模様を作る染色技法です。 結んだ部分には染料が染まりにくく、カラフルでランダムな模様が特徴となります。個性的で多様なデザインが可能かつ、自分でアレンジしやすいのでDIYとしても親しまれています。 |
製品染め | 「製品染め」はすでに完成した服に、後から染色を施す技法です。生地から縫い目含め、すべて同じ染料で染めるため、個々のアイテムに独自の色ムラや風合いが生まれます。その際、製品タグやブランドタグは予め外され、染色後に縫い付けられることがほとんどです。 |
液流染色 | 「液流染色」はロープ状に繋げた生地を染料液と共に循環させながら染色する技法です。高音と高圧の管内で生地に染料をもみ込み、摩耗を防ぎながら均一に色を染めることが可能です。 もみ込んで染色することでナチュラルなシワ感を残すことができ、生地に奥行きや色の深みを作り出します。この染色技法は特に、シルクや軽いウールなどの繊細な素材に向いています。 |
ジッガー染色 | 生地を大きなロールに巻き、染料液に浸しながら左右に動かして染色する技法を「ジッガー染色」と呼びます。主に長尺の生地を均一に染めるために使用されます。 ロール状にした生地を繰り返し浸すことでムラなく染色することができ、大量生産に適した方法です。ナイロン製の生地を染色する際に用いられます。 |
ピグメント染色 | 「ピグメント染色」は染料ではなく顔料を用いる染色法で、生地の表面に色を定着させます。繊維の内部に浸透せず表面のみに付着するため、独特な風合いが出るのが特徴です。 また、経年変化で見られる色落ちはピグメント染色特有の味わいとなるため、アイテムをよりファッション性のあるものへと高めてくれます。 |
デメリット
先染めの製品と比べると、色持ちの悪さが挙げられます。出来上がった生地の上から染色しているため、長く使用していると、本来の色味からは段々と違ったものへとなっていきます。また、染色過程において色ムラが発生してしまう場合もあります。そのため後染めの染色技法は高品質なアイテムよりは、回転の早いファストファッションのアイテムに多く見られます。
先染め・後染めのケア方法
染め製品は、染料が溶解する温度や摩擦に気を付けてケアすることが重要です。先染め・後染め製品の洗濯方法や色移りしてしまった場合の対処法を解説します。
洗濯の仕方
先染め製品の洗濯
先染めの製品は比較的、色落ちしにくいですが洗濯には注意が必要です。特に濃い色味の先染め製品と、白や淡い色味のアイテムと同時に洗うことは、避けるのがベターです。製品タグにもよりますが、原則手洗いすることがおすすめです。 摩擦を避けることで、余計な色落ちや毛羽立ちを防ぎます。
洗剤は色落ちを抑える中性洗剤を使用し、押し洗いします。製品に付着している汚れに対しては強く擦らずに、指の腹で優しく「つまみ洗い」しましょう。そうすることで洗剤を含んだ水が、汚れを押し出すようにして取り除いてくれます。
後染め製品の洗濯
先染め製品と同じく、洗濯方法は中性洗剤を使った手洗いがおすすめ。また、後染めの特性上、最初の数回では色落ちが見られます。もし単体で洗わず、洗濯機を使う際には「同系色の製品と洗う」といった注意が必要です。
洗濯の方法は前述した先染めと同様ですが、さらに色落ちを防ぐために「冷たい水」で洗うという方法もあります。これは水温が高ければ高いほど、染料が抜け出しやすくなるためです。
また染料を定着させる色止めとして塩を用いる方法もあります。水1リットルに対し、大さじ1杯の塩と中性洗剤を混ぜて洗います。そうすることで色落ちしやすい後染め製品も長く愛用することが可能です。
乾燥
しっかりと濯ぎ、脱水を行ったあとは形を整えて「陰干し」または、バスタオルの上で「平干し」をしましょう。その際に裏返しておくと、より色褪せをより防いでくれて効果的です。
直射日光を長時間浴びてしまうと色褪せの原因にもなってしまうため「天日干し」は避けることがおすすめです。そのため、室内での乾燥も1つの方法です。また、乾燥機の使用は高温により製品が縮んだり、摩擦によって色褪せの原因となります。
色移りした場合の対処法
他の衣服に色移りしてしまった場合、素早く対処することで染み込んでしまった色を取り除ける可能性が高くなります。ここでは、色移りした場合の対処法をいくつかご紹介します。
高めの水温で洗濯する
衣服に付いてしまった染料をてっとり早く落とすには、高めの水温で洗うことが簡単でおすすめ。水温が高いと染料が抜けるという性質をいかして、50℃前後の温度で洗いましょう。その際、中性洗剤の量を多めに入れておくとより効果的です。また、水温はそれ以上高めてしまうと生地自体を傷めてしまうので、注意が必要です。
酸素系漂白剤を使用する
色の移りがひどく、時間が経過した場合に最適なのが「漂白剤」を使った方法です。漂白剤は染料の付着を緩和し、取り除く効果が期待できます。特に酸素系漂白剤は色柄物に使えるため重宝します。
手順は簡単で、お湯を張ったバケツに酸素系漂白剤と洗剤を規定量入れ、30分〜1時間ほどつけ置きします。その後は通常通りに洗濯します。たったこれだけの作業で色移りしてしまった染料を取り除いてくれます。
白い衣服には塩素系漂白剤がおすすめ
白い衣服には塩素系漂白剤を使うことができます。水を張ったバケツに塩素系漂白剤を適量入れ、30分ほど浸け置きし、その後洗濯します。この際、他の洗剤とは混ぜずに漂白剤だけで使用しましょう。また、塩素系はとても強力な漂白剤なため、長時間のつけ置きはおすすめしません。
注意すべき点として、色移りしてしまった衣服と他の衣服とは一緒に洗濯しないことです。さらに色移りしてしまう可能性があるため、単独で処理をするのが安全です。以上の方法でも落ちない頑固な色移りやデリケートな素材の場合は、一度クリーニング店に相談することを推奨します。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。先染めと後染めにはそれぞれにメリット・デメリットがあるため、どちらの方法を選ぶかは製品の用途や求める品質によって異なります。また、色落ちや色移りなど取り扱いに気を遣うイメージですが、適切なケアを行うことでどちらの染色方法の衣類でも長持ちし、永く楽しむことができます。是非この記事を参考にしていただければ幸いです。
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この記事を書いた人
小川剛司 (MODESCAPE 編集部)
ライター・ファッションモデル。学生時代のアルバイトからファッションの世界へ。大手セレクトショップの販売員、ECスタッフを経て、長年携わったアパレルの経験と知識を活かしWEBライターに。数々のファッションマガジンサイトで執筆を行い、メンズ・レディース問わずおしゃれを発信しています。現在は韓国を拠点にモデル活動しており、更なるファッション知識を探求中! Instagram:@t_t_k_k_s_s