”アバンギャルド”の象徴、唯一無二の世界観を持つジャン=ポール・ゴルチエについて
1976年に始まったフランスのファッションブランド、ジャン・ポール・ゴルチエ。
アバンギャルドかつ、独創的な世界観を持っており、その独創的なファッション性から様々な名作映画や音楽スターの衣装も手がけています。
2023年現在、2000年代のファッションが再度流行するY2Kファッションの影響も有り、ゴシック要素の強いジャン・ポール・ゴルチエのアイテムがさらに人気を集めています。
この記事ではジャン・ポール・ゴルチエの歴史や魅力について解説していきます。
ジャン・ポール・ゴルチエとは
現在ではプレタポルテでの販売が終了しているため、古着市場で徐々に価値のあるものになっている「JEAN PAUL GAULTIER」。 新進的なデザインはもちろん、ジェンダーの壁を超えたアバンギャルドなブランドをデザイナーとともに紐解いていきましょう。
ブランド概要
デザイナーである「ジャン=ポール・ゴルチエ」から、フランスで立ち上げられた「JEAN PAUL GAULTIER」。
アバンギャルド(前衛、先駆け)なブランドとして知られており、ファッション業界でなく映画や音楽業界にも衣装を提供するなど、幅広い活動を行っています。
1976年にジャン=ポール・ゴルチエ自身の名で、初コレクションを発表。1978年にはオンワード樫山がフランスで設立していた「カシヤマフランス」と契約を結び、本格的にブランドを展開していきます。レディースのプレタポルテから始まったJEAN PAUL GAULTIERのテイストは今見てもユニークなデザインが多く、当時から先駆け的な存在だったと窺えます。メンズアイテムとして作られたスカートやレディース用のタキシードなど、ジェンダーの壁を逸脱したものをコレクションで発表していました。
セクシャリティーやフェティシズムに問いかけるような、圧倒的で独創性を持ったデザインも注目されており、カルト的な人気があります。ですが彼自身、特に奇抜でアバンギャルドな服作りはしていないようで、「クラシックが基本にある、あくまでベーシックな服」とインタビューで発言しています。ブランドスタートから約20年後の1997年SSに、オートクチュール部門「GAULTIER PARIS」を設立。
その後、彼が手掛けるオートクチュールコレクションは2020年SSで終了し、翌シーズンからは毎回異なるデザイナーを起用した、ゲストデザイナー制で新たに始動します。その第一回目となるデザイナーは「sacai」の阿部千登勢が選ばれ、異質な素材使いを駆使したコレクションを披露し話題となりました。彼女のデザインセンスは異素材を組み合わせることで斬新なアプローチを得意とするジャン=ポール・ゴルチエと共通する部分があり、抜擢されるのは必然的だったでしょう。
メインラインとしてブランドの主力だったレディースプレタポルテ「JEAN PAUL GAULTIER」。そして2010年SSから本格的にスタートしたメンズプレタポルテ「JEAN PAUL GAULTIER monsieur」。
この両ラインとも2015年SSを持って終了しており、2023年現在でも新たなプレタポルテラインは作られていません。
ファッション業界のみならず、その他のカルチャーにも深い繋がりを見せるジャン=ポール・ゴルチエのデザイン性。多くの名作映画の衣装や音楽業界における名だたるスターのライブ衣装も担当しています。
“ファッション界の異端児”ジャン=ポール・ゴルチエ“
出典 jeanpaulgaultier.com
1952年、フランス・パリ郊外で生まれた「ジャン=ポール・ゴルチエ」。
ファッションよりもどちらかというと映画やミュージカルといったエンターテイメントに興味があった彼。テレビで見た、パリの老舗キャバレーである「フォリー・ベルジェール」のショーをきっかけにファッションへの道を志します。 幼少期は、仕立て屋兼美容師だった祖母や母親が裁縫をしているところを見ては学び、その後も服飾の専門学校へは通わずに独学でデザインを勉強していました。
そして彼はスケッチ画を描いてはデザイナーやスタイリストに送るということを繰り返し、1970年18歳にして「PIERRE CARDIN」でキャリアをスタート。1年間アシスタントを務め、同じメゾンであった「JACQUES ESTEREL」や「JEAN PATOU」でも経験を積みます。その当時「ピエール・カルダン」の元には多くの日本人女性がデザインアシスタントとして在籍。コミュニケーションを通じて彼女たちから「日本の美意識や繊細さ」を学び、ファッションの学校を出ていない彼はデザイン画の書き方も教わった、というのは有名な話です。
同じく日本人デザイナーである「KENZO」の高田賢三も彼に刺激を与えました。当時はモデルがナンバープレートを持ち、ミュージックも無い中ただ歩くだけだったシンプルなショーでしたが、KENZOが行ったのは明るく華やかで従来とは違った演出。シルエットやカッティングといったデザイン面はもちろん、ショーの自由さにも感銘を受けたと語っています。
1976年に初コレクションを発表。その2年後、1978年に日本のオンワードグループがパリで出店していた「BUS STOP」というセレクトショップの専属デザイナーに採用されます。この頃からジャン=ポール・ゴルチエとオンワード樫山の間には深い関係があり、彼は「ファミリー」だとインタビューで発言するほど。会社からの潤沢な資金を元手に、自由に作品をリリースするJEAN PAUL GAULTIERは大きな成長を遂げ、1981年にはオンワード樫山とライセンス契約を結びます。
自身のブランドと並行して2004年FWから約8年間「HERMES」のレディースのデザインも務めることになります。
その前任には「マルタン・マルジェラ 」が1997年から2003年までデザイナーとして在籍しており、彼らが師弟関係であったことがきっかけでジャン=ポール・ゴルチエが抜擢されることになります。
2015年、JEAN PAUL GAULTIERではメンズ・レディースともにプレタポルテを終了することを発表。その後も彼が手掛けていたオートクチュールラインでデザインを行っていましたが、2020年SSを持って引退。
ファッション業界からは彼の引退を惜しむ声があがりました。
ジェンダーレスファッションの先駆者として
デザイナーとして頭角を現してきた当初から前衛的かつ挑戦的なコレクションを展開しているジャン=ポール・ゴルチエの作品。その中でも人々に衝撃を与えたのが「ジェンダーレスなファッション」の提案です。今でこそLGBTというワードが浸透していて、ファッションのみでなく社会としても男女の性差を無くしていこうという運動が行われています。 当時としてはとても斬新だったそのようなファッションの発表は賛否両論を生みました。
彼が1985年に初めてランウェイに登場させた「メンズ用のスカート」。
スカート単体という訳ではなく、ワイドパンツの上からラップスカートを合わせるスタイリングはとても人々の目を引くルックでした。このメンズスカートをきっかけにモード界では、スカートを用いたスタイリングが受け入れられるようになります。
日本でも「COMME des GARCONS」のスカートにパンツを合わせる着こなしが人気になっていたり、1990年代には「フェミ男」と呼ばれる女性のような中性的な男性や彼らが身に付けるファッションがブームになったりもしました。
出典 vogue.com
もちろんジャン=ポール・ゴルチエが発表したのはメンズのみだけでなく、レディースファッションにもジェンダーレスなアイテムがあります。
一般的に男性用と考えられるタキシードをレディースのコレクションに登場させたり、1993年SSでは胸まで覆い隠すハイウエストスラックス、またそのセットアップが展開されています。
セクシュアルなアイテムやコルセットを使い、女性らしいラインが強調されるコレクションを発表する反面、このような男女の垣根を超えたデザインを打ち出す彼は「体型や人種、ジェンダーは関係ない。あらゆるものが美しい」と語っています。
「美は1つだけではない」というマインドを持っていて「ファッションは習慣や文化にとらわれずに全部取り込んで解放すること」とも発言してます。ファッション業界においてジェンダーレスなデザインや着こなしは比較的、女性のほうが受け入れられている傾向があります。
ですが彼の提言する「常識にとらわれず、あらゆるものが美しい」ということが世間に浸透すれば、今後男性のジェンダーレスなファッションも受け入れられるようになっていくでしょう。
ジャン=ポール・ゴルチェが作り出す音楽・映画の世界
彼の独創的な発想力は音楽・映画の世界でも遺憾なく発揮されます。見る人を魅了するそのデザインはとても印象的なものばかりで、作品の存在感をより高めてくれます。
音楽
出典 yahoo.co.jp
ジャン=ポール・ゴルチエが残した功績はファッション業界だけではありません。音楽業界で数々のビッグアーティストに彼のセンス溢れるデザインの衣装を提供してきました。
2013年SSコレクションのテーマに「1980年代ポップスのスター達をオマージュしたランウェイ」を発表していて、彼自身がそのようなカルチャーから影響を受けていたことが窺えます。
そのコレクションのコンセプトの1人としてピックアップされた「マドンナ」。
実際、ジャン=ポール・ゴルチエは彼女に衣装提供をした過去があります。
1990年に行われた「Blond Ambition World Tour」では彼のシグニチャーとも呼べるコーンブラはもちろん、それに合わせたピンストライプのセットアップも登場。ジャケットにはコーンブラが内側から飛び出すようにスリットが入っており、とてもスタイリッシュなデザインになっています。
その他にもロックアーティストの「マリリン・マンソン」、そして日本を代表するバンド「BOOWY」にも衣装を提供していました。
映画
映画の世界観を存分に発揮するには、無くてはならない衣装。いくつかの名作映画の衣装デザインもジャン=ポール・ゴルチエは手掛けており、話題になりました。
「コックと泥棒、その妻と愛人」「ロスト・チルドレン」「私が、生きる肌」といった作品が名を連ねます。
1993年に公開された「キカ」という映画ではとても印象的なドレスが登場しています。
主人公の女性が着ている、身体のラインに沿った黒のドレス。血が飛び散ったようなデザインが全体に施されていて、さらにプラスチックで出来たバストが中から飛び出しているのです。
元になったのは1989年「Women Among Women」に発表されたドレスで、「女性におけるセクシャリティーの常識からの解放」を表現しています。
1997年公開の「フィフス・エレメント」ではボンテージルックの衣装が登場しました。彼自身の作品である「ケージドレス」からインスピレーションを受けていて、その名の通り「檻(ケージ)」を表現。社会のケージに抑圧された女性性をデザインとして問いかけています。
出典 realsound.jp
前衛的かつ芸術的なアーカイブアイテム
2015年以降は新たなプレタポルテのアイテムが生まれないため、JEAN PAUL GAULTIERの作品は時を重ねるたびにとても貴重なアイテムとなっていきます。そんな気鋭なアーカイブをご紹介します。
・コーンブラ
出典 thetimes.co.uk
前述したようにマドンナへの衣装提供によって、トピックとなったコーンブラ。彼女が行ったツアーの7年前、1983年FWにコレクションで初登場しています。
円錐形のコーンが装飾されたブラ付きコルセットは当時とても斬新なものでした。本来なら隠れているべきである下着をあえてトップスのウェアとして提案したそのスタイルは、既存の常識に捉われられないデザインです。
セクシーかつエレガントな雰囲気を醸し出すコーンブラ。現在でも人気が高く、モデルの「ベラ・ハディット」や「カイリー・ジェンナー」など著名なセレブも着用し話題を集めています。
・パワーネットプリントカットソー
細かいネット状の生地は伸縮性のある、着心地の良さがポイント。そこにジャン=ポール・ゴルチエらしさのあるプリントを施した芸術的なカットソーです。タトゥープリントのように全体にデザインされており、コーディネートのアクセントにも一役買ってくれます。
このデザインにインスピレーションを受けたデザイナーも多く、「DIOR」や「COMME des GARCONS」「VETEMENTS」といった有名メゾンが絵柄を取り込んでいます。彼のアイコンアイテムとも呼べるマリンボーダートップスに並ぶ、人気アイテムです。
・レースアップレザースリーブダブルブレストジャケット
ジャン=ポール・ゴルチエのデザインの特徴として「異素材を組み合わせてハイブリッドなアイテムを作る」というものがあります。これは彼のルーツにまで遡ります。
若手デザイナーとして駆け出しの頃はお金が無いため古物市で古着を買っては、パーツを繋ぎ合わせてリメイクし、それを発表していたと言います。自分なりの着想を組み合わせて新たなデザインを生み出すのは彼のエッセンスでもあるのです。
ドレスアイテムとして重厚なダブルブレストの袖を、あえてレザーで切り替えることでモードらしさを演出。さらにレースアップ仕様にすることで、エレガンスさも感じさせるアバンギャルドなアーカイブ作品になっています。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。 1980年代から常識を覆したジェンダーレスなアイテムを発表しているジャン=ポール・ゴルチエ。時代の先を行き過ぎたため彼の作品は度々、賛否両論を引き起こしますが、それでもファッション業界に与えた影響ははかり知ることができません。音楽・映画ともに落とし込まれる彼のデザインは多くの人を魅了しました。
現在はデザイナーを退いていますがJEAN PAUL GAULTIERでは毎シーズン、デザイナーを変えてコレクションを発表しており、ブランドの培った世界観を発信し続けています。
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Jean Paul GAULTIERの買取について
この記事を書いた人
小川剛司 (MODESCAPE 編集部)
ライター・ファッションモデル。学生時代のアルバイトからファッションの世界へ。大手セレクトショップの販売員、ECスタッフを経て、長年携わったアパレルの経験と知識を活かしWEBライターに。数々のファッションマガジンサイトで執筆を行い、メンズ・レディース問わずおしゃれを発信しています。現在は韓国を拠点にモデル活動しており、更なるファッション知識を探求中! Instagram:@t_t_k_k_s_s